またもや落ち込む今日この頃…
皆さんこんにちは。今、私はまたしても迷ってしまっております。現在、新しい舞台で役をいただいたのですが、そのセリフがまったくと言っていいほど入ってきておらず、稽古に入ってしまっております。これは、良いこととは言えないでしょう。
一昔前に教えていただいていた先輩役者の方に、「稽古初日には台本を手放していることが基本。まだ台本を持っている人は「有名人で大御所」か「手抜きなド素人」だけ。」という言葉を聞きました。「本当にプロとして活躍している人は、セリフを間違わないし、台本も持ち込まない。」
この言葉を最近思い出し、本当に私は役者としてのプロ意識が足りないと、反省してしまいました。
でもね、セリフが入らないんですよ。何度も何度も台本を見て、読んで、台本を閉じて暗記しようとして…。でもなかなか入りません。そもそもどのように行えば、セリフが入っていくのでしょうか…。
セリフの覚え方、聞いてみた
そんな時、同じ舞台に立つ先輩方に聞いてみたところ、色々な覚え方があることを知りました。
繰り返し読み気合で覚える人、セリフを文字に起こして覚える人、自分のセリフを録音し覚えていく人など…皆さんそれぞれ工夫をしているようでした。中でも一石二鳥、というか実際に演技をしていくうえでもつながる覚え方があるとのことで詳しく聞いてみると、その方は「役作りをしながら覚えていく」という方法があるとのことでした。
役をもらうと頭がパンクして、まずはセリフを入れなきゃと、役作りを後回しにしていた私ですが、実はセリフを覚えていくには先に行うほど良い場合があるようです。
人の記憶には種類があるようですね。そしてその種類、特徴、仕組みを学ぶだけでも、通常より効率的に覚えられる可能性があるかもしれません。今回は記憶について勉強していきましょう。
記憶の種類は3つ
まずは「感覚記憶」
これはほんの数秒ほどでなくなる記憶であり、目や耳、鼻などの感覚器官から、日常の生活の中で得ている膨大な情報のことをさします。特に必要としない情報が多いため、一瞬で消えてしまうそうです。
私たちが普段風を感じていたり、歩いているときに感じるにおいや音を毎日覚えている人がめったにいないのも納得です。役者としてはここを引き出したいところですが…。
実は、日常生活などの感覚的記憶を呼び起こすトレーニングなどもあったりするのですが、それはまた今度。
次に「短期記憶」
この単語は聞いたことのある方も多いのではないでしょうか。人から教えてもらった住所や電話番号などの情報を15~30秒ほど覚えておける記憶のこと。別名として「ワーキングメモリー(作業記憶)」とも呼ばれているようです。
セリフを覚えるときも数秒間は覚えていられるのに、もう一度繰り返したときにはもう忘れているときの記憶能力は「短期記憶」を使っているのかもしれませんね。これをどうやって長く持たせられるのでしょうか…。
最後は「長期記憶」
このワードも聞きなじみがありますね。年単位、あるいは一生涯覚えていられる記憶能力のことを示すようです。具体的には、自分の誕生日や住所、名前などが当てはまります。
一生涯覚える記憶能力って、考えてみると人の名前を覚えたり、感動した場所だったりしますが、何か関係があるのでしょうか。そして決まって若いころの思い出がこれに当てはまることが多いですね。数年たった今でも出身校やその場所なんかも覚えていますし。
どのようにして定着していくのか、興味深くなってきました。
脳が覚えるのはどうしてか
さて、記憶能力の種類が分かったところで、今度はその仕組みを見ていきましょう。
もうご存じの方も多いかと思いますが、脳はたくさんの神経細胞(「ニューロン」とも呼ばれている)からできており、この神経細胞が感覚や記憶などの人の情報処理に活躍しています。その中で「記憶」というのは、複数の神経細胞につながれている「シナプス」で行われています。
脳の中では、この「シナプス」に情報が入るのですが、実は一つ一つに情報が丸ごと入っているわけではなく、一つの情報が分散されているため、一つのシナプスを見たところで、意味は読み取れなくなっているのです。一つの神経細胞には、約1万のシナプスがあり、それぞれが同時に活動しているために、その活動の関係性を全体的に見ることで初めて意味が読み取れる、という仕組みになっているようです。
いろんな引き出しを開けることで、その情報が出来上がるというイメージだと、非常に効率が悪いように見えますが、人が機械より臨機応変に対応できるのは、この情報がそれぞれ部分的に入っているからこそ、引き出すものの組み合わせ次第でよりひらめきができるのかもしれませんね。
近年では、記憶を定着させる構造が分かってきているようで、繰り返しの勉強で同じ情報を何度も入れると、シナプスから受け取る情報を効果的に受け取れるようになり、繰り返していくことで消えにくい情報となっていくようです。
記憶は海馬
記憶には、神経細胞が大いにかかわっていることが学べましたが、次は、脳のどの部分でそのやり取りが行われているのかを見ていきましょう。
まず、記憶に関係している脳の場所は「海馬」と呼ばれる部分であり、ここでは短期記憶と長期記憶が関係します。記憶のされ方については先ほど説明したように、記憶情報が電気信号として大脳皮質の「神経細胞」を刺激し、その刺激が強くなるほど多くの「シナプス」が組み合わされて伝達効率が増え、特定の電気信号が伝わりやすい特別な回路ができます。その回路を長く使うことで記憶が定着していき、出しやすくなる、という仕組みです。
ただ、重要なことは「海馬は覚えるべき情報のみを大脳皮質に送る」ということが言われており、覚える必要のないものと判断された場合は、長期記憶として残ることはないようです。覚えようとしなければ覚えられないというのも当然のことですね。
試してみたい記憶方法
脳の構造がある程度理解できたところで、効果的に覚えられる方法を探してみました。
「感情」で覚える
よく感動した記憶や、楽しかった出来事、つらかったことなど、心が動いたことが思い出しやすいことに気づいたことがありますが、これは感情をつかさどっている部分が働いているときには、短期記憶から長期記憶に進みやすくなることが分かっているようです。
セリフを覚えるときも、まずは文字を感情で入れ、セリフがすらすらと出るようになった後に感情抜きで出るようにできればいいかもしれません。少し遠回りするかもしれませんが…。
興味をもってみる
自分が好きなものは自然と記憶している、なんてことはよくありますよね。覚えなきゃっていうものほど覚えられないし、そういう時は覚えようとするものを調べてみるといいのかも。
年齢を重ねると記憶能力が落ちてしまう、ということも、実は「加齢とともに周囲に興味を示さなくなったため」ということが関係している可能性があるとのこと。
セリフを覚えようとするあまり、セリフの意味や役の気持ちなんて考えてなかったことも原因かも。
あとはひたすらアウトプット
いろいろと説明していましたが、人は忘れる生き物だそう。なので覚えようとしても忘れるのは当たり前なのだそう。
じゃあなんで長々と調べたんだって話ですが、自分を気づつけてしまうような情報から自身を守るためにも、不要な情報は忘れるようになっているようです。
そのため定着するまでにはひたすらアウトプットする必要があるよう。地道な努力は裏切らない、ということでしょうか…。
ただ、より効率よく覚えるためには「感情」「興味」を利用するとよいことには変わりないようです。
努力は必要
いかがでしょうか。私、感情と興味そっちのけでただひたすらにアウトプットしていただけなので、ちょっとこれから意識してやってみようかと思います。
皆さんもぜひ試してみてくださいね。
では、この辺で。
「参考文献」
・ぜんぶわかる脳の事典(成美堂出版)
・つながる脳科学(講談社)
・脳と心の仕組み(新星出版社)
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