人生のターニングポイントを感じたあの時

記録

選別。選び別けられること。今、まさにその選別の時。呼び出された時間、呼び出された場所、そこにいる数十名の人たち。

友人同士なのであろうか。お互いにヒソヒソとおしゃべりをしながら笑い合う二人。その横には、目をつぶりながら呪文のように何度も同じことを繰り返す人。

スマートフォンを触り、耳には今時当たり前のように着けている、コード0のBluetoothイヤホン。お気に入りの曲でも聞いているのか上下に動く指がチラチラと目障りだ。

そう、ここは自分の出番を今か今かと待ちわびる、神経の張りつめた空間、オーディション会場。

そんな会場を正面に、手のひらには汗をにじませ、ところどころにシワの入ったシューズに、もう少しちゃんとしてくるんだったと焦る私…。

これは、数年前に初めて事務所のオーディションを受けた時の話。

いつもの勤務

今日も残業3時間。予定していた仕事を早く終わらせて、あのドラマを観よう、という計画のもと、着々と仕事!わをこなしていた私。予定より落ち着き、残り30分で終わりというところにきたところ、取引先からの連絡が。

「お世話になっております。」

ビジネスメールのご挨拶。この数年で何度見てきたことだろう。そしてキャリアを積んだご年配の方ほど、この挨拶は飛ばし、要件だけ言うこの制度。

効率的なのか無愛想なのか、時々私も省いてみたりしたが、その都度上司には手直しされるというもの。年齢が若いからなのか、礼儀をしっかり考えなさい、ということなのか、謎である。

メールの内容としては、こちらが急かしてしまった依頼が出来上がったので確認してほしい、というもの。急かした手前、これを翌日に持ち越すのは気が引ける。

「内容確認次第、また改めてご連絡いたします。」

確認するものは、数十ページにおよぶ超大作。資料と言うものは、なぜこうも分厚くなるんだろう。データや画像だけで分かるように作っているのだろうが、まだ経験浅い私にはグラフの縦軸横軸の意味を解読するのに数十分かかるもの。雑に読めばミスが出るし、かといって現場のヘルプをしながらの確認作業は、スピード感がなければ行ったり来たりの無駄作業。

誰かとなりで解説してくれ、と心のなかで叫ぶが少数精鋭の店舗内には社員は一人。そんな声もむなしく自分に響くだけ…代わりにスタッフさんからの助けを聞きつけ、現場に急行するオチ。

「今日も残業コースだな、臨時収入だわ」

出会いは秋の自宅ポスト

そんな思い通りにいかない1日を繰り返し、少し疲れたな、そう感じるようになったある秋の平日休み。久々の休みだが、することが思い付かない。一日映画を観て過ごそうか、等と考えながら体は身だしなみを整え外出用の服を着ている。仕事着に着替えてなくて良かった、いろんな意味で。

結局、毎回恒例の散歩を1時間ほど。晴れていたので気持ちは幾分かマシといったところ。しかし収穫がない。なんかこう、休みを謳歌している、そんな気持ちがほしい!

思うやいなや、映画館へ。そして、終わった後に近くの銭湯でリフレッシュ。結局このルーティンは毎度お馴染み。もはや、休みのルーティン過ぎてこれが休みを謳歌することのような気がする。

でもなぜか、この日だけは家に帰っても疲れていた。肉体的、というより精神的に。何をしてもリフレッシュされない心の中は、いっそ暴れてやりたいくらいイライラしてしまう。なぜこんなところで、休みなのに休めていないのか。いつからスマホの着信音に冷や汗をかくようになったのだろうか。このまま歳をとって終わりなのか。

そんなことを考えていると、ふと子供の頃の夢を思い出す。もう一度、チャンスをつかめないか。勇気を出すそのチャンスを。

その数日後、自宅のポストに届いたのはある学校の資料だった。

直観と前進

手元に届いた資料を確認すると、それは前の休みの日に興味本位で検索し、試しに資料請求した専門学校の資料。気づいた時にはすぐ開いて読んでいた。そこには、夢を追う10代くらいの男女の授業風景が映っていた。

そして、夢中になってみていると、着信が。一瞬にして仕事モードになった私だったが、電話に出てみると知らない男性の声。聞いてみると資料請求した学校のマネジメント担当の方。資料を請求してくれた人には全員に連絡しているのだという。資料請求だけで電話って、結構な仕事量にならんか。

そのかたから「一度学校に見学にお越しください。」という勧めもあって、次の休みには授業の見学に向かうことに。そこでは、同じ夢に向かって一生懸命に、そして楽しそうに授業を行っている姿があった。見学をする際に気を付けていたことは、建前で楽しそうにやってないか、質はどんなものかなど、注意してみるところではあるが、あまりの和気あいあいとした雰囲気に、そして自分がやりたかったことを目の前で楽しそうにしている様子を見て、自分もこの一員としてまずは仕事をつづけながら学んでみるかと、そう感じてしまった。…別に悪いことではないのだが、なぜかその時は「ここにしておけ」とジャッジが下ったのだった。

まず始めるとしても、今の生活を投げ打つほどの興味があるのか、お試し感覚で。そして何より続けてやり続けるほど、やりたいことなのか。その一年間にしようと決心し、入学を決意。これで夢をつかむにも、一歩先に進めたわけです。

新たな出会い

それから始まった新しい生活周期。メインはもちろん会社員としてのお勤め。とはいえ、休みがほとんどない現状に、休み希望を出したところで通ることは皆無。そう思って、このことはまだ上司に報告せず。第一に先に進めるかどうかも、この時はまだ考えていたころ。

そんな中、週に1回の授業がスタート。初めて出たその授業では、自分より3つも4つも年下の人が。しかし、以外にも同世代のほうが多いことに驚いた。業界的にも10代のうちに学び、20代のぴちぴち感を出して活躍するイメージがあったからだ。

そんな、年が近くかつ同じ志を持つ同期とはあっという間に打ち解けることができた。普段は鉄壁の社交を使い、深く交流することを避けていた私であったが、同志と思うとこんなにもしゃべれるのかというほど和気あいあいと交流することができた。

偶然なのか必然なのか

学校というものは本当にチームワークが楽しめる。だからこそ、この出会いをきっかけに、新しい自分の進む道を決め行動できたことと思う。

難しく考えていた「会社員を辞める」ということも、本当にしたいことを考えてみるとなんとかなること。そして何より、まずは調べてみる、という行動ができたということが、非常に大きい一歩になった。

今後もその決意だけは続けていこう。いつか「あの些細なきっかけが、今になるということ」を体現できるように。

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