会社の良さ。それは、給与の安定。そう考えていた私ですが、ここにきて別の良さを感じるようになりました。それは、あくまでも責任は会社が、社長がとるというところ。
そう、これに至っては無責任な発言に聞こえるかもしれませんが、特にベンチャー企業のはじめの段階ような少数精鋭チームでは、上司も部下もあるようでないようなものです。部長、課長、係長などの制度がない会社では、平社員が社長に確認を取ったり物申すことなど日常茶飯事。
このお話は、そんなベンチャー企業でもしもこんなことが起きてしまったらと、半分以上想像しながら会社について、そして人が働くことについて考えていく、そんな記事内容になっています。
会社を辞めた先輩。その後の社内とは・・・
「では。これまでお世話になりました。」
お昼過ぎの営業時間。そういって先輩は会社を退社され、それ以来連絡を取ることはありませんでした。
そんな姿を見送り、今後の引継ぎなどを考えるのかと上司に目線をやると
「チッ」カタカタカタ…
退職する背中に舌打ちを浴びせる上司。明らかなこの態度に、この会社はまずい、と思うのが普通なところ。負の感情をあらわにするリーダーに誰がついていきたくなるのか、考えてほしいものです。
その日は定時に即帰り、できるだけその空気感から離れたわたしでした。
翌日。いつもと変わらない黙々と作業する社員たち。昨日の今日で、退職していった彼のことなどこれっぽっちも感じさせない空気感。
ただ、違うといえば、先輩の置き土産であるその残作業の振り分けで、顔しかめる上司の姿に、少しは考えるところがあるのではないかと思ったそんなとき。
「今日は面接入ってるから。」
と私に伝える上司。「え?」と返すと、
「だから、面接。13時からだから」とそれだけ。
まあ、怒っているのか忙しいのかわかりませんが、余裕のないときは大体こんな感じ。
分かりました、とだけ伝え、いつものように会議室での準備を行い対応する私。
自分でも思いますが、聞き分けのいい人はいろいろと損をする。ただ、聞き分けがいいということは、不満や意見をあまり伝えられないということ。会社というものはそういう聞き分けのいい人が残ってしまうものでもあるのではと、入社してから1年も働いている私は思うのでした。
何か意見を求める機会があれば、普段のあれやこれやを伝えるのに。みんながそうかは分かりませんが、聞き分けのいい他人任せは、こう考えてしまうのです。普段話す機会がない場合は、そうした機会を作ってくれることも嬉しいものです。
住めば都な職場って…
それからというもの、入社した方は次々に辞めていき、職場内の人数は一向に増えることなく、そして、奇妙なことに減ることもなく、会社がつぶれることなく生き残っているのでした。
私個人的、一種の事務局員のような役割のため、他の正社員とはかなり雇用が変わっています。そのためか、自由にお休みを入れることも可能で、非常に楽に勤務させていただいております。人の入れ替わりの激しい職場に出勤するときの精神的な疲労は、かなりつらいところはありますが、メンタルの強さは人一倍あるのかなと、自分を鼓舞する毎日です。
そうこうしているうちに、最近では入った人たちの中で、一番歴が長くなってしまいました。それとなく信頼も得られているようで、他者とのコミュニケーションの担当もいくつか任されるようになりました。ただし、この仕事を受けるときにも、上司とはあーだこーだと反論もしたりしながらでしたが…ただ、人に任せられる、ということは自分の大きな成長を実感できますね。
これまででも思いますが、仕事自体、特段好きでもありません。が、今できることがそれしかない、というだけ。趣味を仕事にする、夢を仕事にするなどありますが、それを選ぶことができるようになるまでは、しばらくは与えられた仕事を自分の力で動かしていくことに専念しよう、そう思えば、意外と長く働けるようになりました。長く勤務していくには、一種のあきらめ、のようなものは必要かもしれませんね。
職場を良くしていきたいから皆さんで協力しましょう!という考え方でいた私でしたが、こちらにも諦めが入ると、自分が働きやすい環境をどう作ろうか、とだけ考え、自分自身で動いたほうが楽ということにも気づきました。私の希望、「時給が高くて休みやすい職場!」ただそれがあれば少なくともこの職場では耐えていける、そう思いました。働く目的にも人それぞれ優先順位がありますから。
期待の新人登場に上司に変化が?!
そんなこんなで、すでにこの会社に対して何かを行うことはなく、ひたすら自分の目的を考えながら働く日々。そんな中、とある新人君が入社してきました。
その方は私より年上。表情は浮かず、どちらかといえば黙々と仕事をするタイプ。これはまたすぐ辞めてしまうんじゃないかとドキドキしながら仕事をしていましたが、この方はまた一段と違った個性をみせていました。
それは「モチベーションを自分で作るタイプ」。そう、ほっておいても成長するタイプなのです。わからないところは調べ、それでもわからなければ積極的に聞き込みをして自分で解決策を見つけていく、そんな働き方。そんな彼を私は「モチベの彼」と呼ぶことにしました。
「周りに合わしてモチベーションが変動するタイプ」の私とは違い、環境に会社に左右されずに自分のスキルを身につけていけるタイプな彼は、さっそく上司のお気に入り。なんたって、仕事はまじめにこなすし、言われた作業は自分でこなしていくタイプなのですから。実力主義?な職場にはもってこいの逸材です。
そんな彼を採用したのはほかでもない私、なのですが・・・。それはそれでおいておきます。
彼は、仕事に慣れ始めたころにはすでに上司と意見をぶつけ合える関係になっておりました。
そんな中でもまた一人、退職者が発生。その次の日の会議で、上司がこう言いました。
「みんな、少しいいかな。このままでは人の流れが止まらない。何かいい意見などあれば教えてくれないか。」
いやいや、ほぼあなたから出た錆が問題ですけどぉぉぉ?と思いながら、電話番で会議に参加していない私は心の中で叫びましたが、上司がそのような話を持ち掛けること自体レア。おそらく、モチベの彼と退職した新人さんと比べ、その違和感に何かを感じたのでしょう。良い傾向にあると私は少しうれしく思いました。
モチベの彼が上司に与えた影響は、これからどんな結果に結びつくのか、少々楽しみです。
会社の改革はこれから
人の入退職が減らないことを議題にあげ、会議は白熱。いろんなところから意見が出て、いつもは30分ほどのミーティングが2時間を超えるものになっていました。でもそれだけ、みな意見がたまっていたということ。その意見をすべて聞いていた上司も、最初は明るい表情でしたが、内容が内容で徐々に打ちひしがれている様子でした。
それはそう。ほとんどみなが指摘しているのは「上司の普段の物言い、態度がやる気を下げている」「辞めさせたいのかと思っていました」など、そんな意見を聞けば、誰だって打ちひしがれてしまいますよね。
そんな中、モチベの彼はというと、一言。
「辞める理由を考えるより、続けたくなる理由を考えたほうがいいんじゃないですか」
彼以外、この言葉を聞いた人はみな、漫画のように衝撃を受けた顔をしていました。きっとこういっているでしょう。
「なんて、なんて恐ろしい子!」
それからというもの、会議は前向きな言葉が出るようになりました。
「僕は定時で帰れればなんでもいいです」「休みの日にも勉強したいですけど、本とか補助してくれませんか」など、いろいろと意見が出ているようで、なかなか今まで以上に活気のある会議になっていました。
それからというもの、なにかやりたいことがあったときは、会議室のホワイトボードに書くスタイルが出来上がり、今では書けるスペースが少なく張り紙で補う状態。社内の空気感はいまだに大きく変化してはいませんが、定期的にそのホワイトボードの項目は消えています。それも上司の手によって。
一つずつ、何かしらの結果が反映されて消されているそのボードを見ると、私も少しずつこの会社を変える何かを書きたくなる、そんな前向きな気持ちになった、夏の暑い昼下がりでした。
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